ぼさとの定規

元書店員ぼさとが社会のこと、書店のことなど、思ったことを書いていきたいと思います。

【元書店員の考え】書店のPOPは一つのメディア。今、リアル書店で必要な演出は「偶然を装うこと」だから、そのツールとしてPOPは非常に優れていると思った。

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この記事の中でカリスマ書店員として有名なさわか書店の田口幹人さんが今の本離れの減少についてこう語っています。

「用がなくても何気なく書店に行って、思ってもみなかった本を買う。そういう経験をしたかたは少なくないと思います。昔は本というものに触れる機会があって、当たり前のように本があった。ところが書店が消えていくことで、最近は、書店を身近なものに感じる人が減ってしまった」
(引用:読書離れ加速し書店は毎年500店以上閉店 「本との出会い」書店員の演出で成功例も|ニフティニュース

 この言葉に書店の役割が凝縮されているように思います。かつてはどの商店街にも商業施設にも必ず1店舗はあった書店がこの20年以上を経て、書店がない商店街や商業施設が増えたのは書店が本の魅力を発信することを忘れていたからではないかという見方もすることできます。
携帯電話が普及する前は商業施設の中に1店舗しかないという特性と本を読みながら待ち合わせ時間をつぶすことができる場所としても機能しており、「自然と人が集まる場所」でもあったと思います。

日本でこのようにどの場所にでもたくさんの書店がかつてあったのは、書店側が仕入れた商品を自由に返品できるシステムのおかげであるといわれています。海外では本を仕入れることはほかの小売りと同じく買い切りが基本なので、リスクがあるため自然と店舗数も少ないですが、日本はまさにその逆を突くことによって書店の普及に成功しました。

しかし、このシステムは薄利多売を前提としているため1996年まで右肩上がりの売り上げだったときは機能していましたが、書籍売り上げが大幅に減少した現代では書店を苦しめているシステムにも変わってしまいました。過去にも書きましたがこうした状況が20年以上続いているため書店では35歳限界説も長年ささやかれています。

bosatonozyougi.hatenablog.com

本当なら、1997年の初めて売り上げが減少した時にいったん書店の魅力について考えるべきでした。
この後、別の魅力発信の方向にどんどん向いてしまいます。書店の大型化をして商品点数を増やすことが最大の魅力だということになっていきました。その結果、本質である「魅力ある売り場つくり」という観点からずれてしまいました。
それが今でも売り上げ減少している最大の理由だと私は思います。

先日、商業施設GINZA SIXに蔦屋書店の新店がオープンしました。アートと日本文化を紹介することメインとしており、普段店頭では並ぶことがない高額のBIG BOOKを50種類程度そろえた売り場を展開したり、高額の春画を取り扱ったりと独特の魅力を発信していることが話題になっています。

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こういった例は極端ではありますが、書店として商品の魅力を打ち出すようになった例は近年に入ってからです。

既存店ではこういった極端な魅力発信をすることは難しいことですが、普段運営している棚担当の書店員が売りたい商品にPOPをつけたり、商品が見やすいように棚作りすることによって魅力を発信することは可能です。
現に2000年代にはPOPブームとなり、今でもPOPの影響力は絶大です。なぜ書店でPOPを書いて本をおすすめすることが成功しているかというと、おそらく、POP自体がメディアとして機能しており、まさしく、本との「偶然の出会い」を演出できるツールとして優れているからだと思います。

ネットではどうしても目的の商品を探して買うことに特化しており、リアルな本屋のように偶然の出会いを演出するすることが難しいようです。(Amazonの「この商品を買った人はこんな商品も買っています」といった関連商品をキュレーションしてくれる優れた機能の例もありますが、ネット通販全体で見ると不十分です。)

ただ、棚に本がぎっしり入っているだけではただの書庫になってしまい、今まではそういった展開でも本を売ることができましたが、目的買いの主役がネット通販に取られた今、見やすい棚づくりがより求められているかと思います

それでは今回もこれでお開きです。

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